無借金のまま株を買い集めたい CASE 06

「我々の世代で問題解決しよう」

「父は、すごい人だった。私はとても、父のようにはなれない」。N社長(51歳)は素直にそう思っている。
N社長の祖父が立ち上げた菓子メーカーを、父親である先代社長が受け継いだのは、N社長がまだ中学生の時だった。
中学を卒業する頃には、会社は2つに増えていた。高校生の頃には3社になり、N社長が大学を卒業した当時、先代社長は6つの会社を保有していた。

新たな菓子ブランドを立ち上げるために設立した新会社もあれば、買収して傘下に収めた清涼飲料水の会社もある。
6社とも従業員が数十人規模。複数の事業を立ち上げる「シリアルアントレプレナー」として、N社長の父親は傑出した実績をあげていた。

先代社長はこれら6つの会社の株の一部を、2人の兄弟に分け与えた。N社長にとっては伯父・叔父に当たる。
「財産をみんなで分かち合おう」という先代社長の考えがあったからだ。
そして株は、N社長を含め、それぞれの子どもたちに受け継がれた。

現在、N社長は祖父が立ち上げた菓子メーカーと、もうひとつの会社の株を過半数保有している。
従兄弟のひとりは、別の2社の株を過半数保有して社長となっている。もうひとりの従兄弟も異なる2社の株を半数以上持ち、社長を務めている。そして、それぞれが自分の支配下にない4社の株を持ち合っている。

この極めて複雑な構造では、N社長から次の世代への事業承継が非常にやりづらい。さらに、このまま放置しておけば、株がさらに分散して、まったく血縁のない他人に渡らないとも限らない。
それはどうしても避けたい。

幸いなことに、従兄弟たちとはとても仲が良く、新しいことを始める場合には互いに資金を出し合う関係だった。
「株の問題を解決するなら、自分たちの代でやるしかないよな」。N社長がそう呼びかけ、従兄弟2人も賛同した。
それぞれが経営する会社の株を100%持てるよう、株を譲り合えばいい。

無借金のまま株を買い集めたい

ホールディングスではない手段で

とはいえ、持ち合っている株をどうやって渡せばいいのか。贈与すれば当然多額の贈与税がかかる。
譲渡する場合でも、受ける側は買い取り資金が必要になる。それぞれが優良企業であるため、株の価額は高い。

資金の工面について取引銀行の担当者に相談したところ、「3人がそれぞれホールディングスをつくって、そこに株を集約すればいい」と提案された。「ホールディングスが株を買い集める資金は当行がお貸ししますから」。
だが、これまで無借金経営を貫いてきたN社長。この解決策はピンとくるものではなかった。

ほかにいい方法はないのか。悩んでいたところ、従兄弟から「資金の問題ではなく、事業承継の問題なんだから、その方面の専門家に話してみたらどうだろう」といわれ、税理士の島﨑(以下、島﨑)に相談することにした。
N社長の話に熱心に耳を傾けていた島﨑は、「それぞれの会社で従業員持ち株会をつくりましょう」と提案した。

まずN社長の会社で従業員持ち株会をつくり、従兄弟が保有している株を買い取る。
従業員持ち株会の場合、購入価額は配当還元方式で決定される。「株主の配当を行うとしたらいくら出せるのか」を基準に評価する方法で、一般的に価額はかなり低く評価される。


“お互い様”戦略で構造を整理

N社長の経営する会社の従業員持ち株会が従兄弟の持ち株を買い取る。
同時に、従兄弟が経営する会社がつくった従業員持ち株会に、やはり配当還元方式による価額でN社長が保有する株を売る。
個人の財産の増減でみると、安い価額で持ち株を手放しているのだから損をしているといえるが、3人とも同じことをしているので文句はない。仲がいいからこそできる“お互い様”の戦略だ。

従業員持ち株会に集める株は種類株を活用し、議決権のある株はそれぞれの経営者だけが持つようにした。
従業員たちにとっても、少額の出資で、優良企業である自社の配当をもらうことができる。銀行預金よりもはるかに利回りがよく、「ありがたい」という反応だった。

こうして持ち合い株はきれいに整理され、N社長は2つの会社の議決権を100%確保することができた。
従兄弟たちも同様であり、みんな結果に満足している。心配事から解放されたN社長。
いま、その胸中には「事業を大きくしたい」という熱い想いがたぎっていた。

「自分には父親のように次々と新事業を立ち上げていく、ゼロからイチをつくる才はない。
だが、イチをヒャクにもセンにもしていく能力ならば、きっとある」。
父親とは違ったカタチで、経営者としての実績をつくってみせる。N社長はそう決意していた。

無借金のまま株を買い集めたい


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