後継者に資金が無い CASE 09

若く有能な社員を候補に

「社長、勘弁してください。ぼくには無理ですよ」
数年前、「会社を継いでくれないか」という話を切り出したとたん、彼が悲鳴に近いような声でこう言ったのを、M社長(60歳)はよく覚えている。

M社長が経営する会社は、老舗の家具メーカーである。
古くからひいきにしてくれている顧客もいるのだが、安価な輸入家具に押されて売上が伸び悩んでいた。
現時点での業績はそれほど悪くはないが、将来性という面ではかなりの不安がある。そういった業種である。

M社長には娘が2人いたが、1人は結婚して家を出て、もう1人はまだ学生。
2人とも、会社を継ぐ意思はまったくない。そこでM社長が「後継者に」と選んだのは、40代前半の社員だった。

当初は職人として採用した人物だった。ところが、いい意味で見込み違いで、国産の間伐材を使った学習机や、北欧風のデザインを取り入れた白木の事務椅子など、これまでになかった斬新な家具を提案する才能をもっていた。
「時代を読んで、新商品をつくる力がある。会社の将来を託せるとしたら、彼しかいないだろう」。
いつの間にか、M社長は、そう考えるようになっていた。

しかし当人は、経営陣のひとりというよりも、職人として自分を位置づけているようだ。
「新しい家具の開発を」と知恵を絞っているのが現状である。
しかしそのかたわら、インターネット通販の立ち上げや、地元の小学生を対象にした「夏休み親子家具作り体験教室」の開催など、M社長には思いもよらない新戦略をどんどん現実化していく力をもっている。

本人が自覚していないだけで、経営者としての力量は十分に備えているのだ。

後継者に資金が無い

自分が現役のうちに準備したい

しかし、まだ40代前半という若さのため、会社の株を買い取るような資産をもっていない。
仮に、株保有の受け皿となるホールディングスを設立して、ホールディングスが株を買い取る資金を銀行から借り入れたとしても、将来がバラ色とは限らないこの業界にあって、借金を返していくのは並大抵のことではないことは容易に予想できる。

経営の経験をあまり積むことなく、いきなり社長になるのはどんなに才能があっても大変なことだ。
そのうえ多額の借金を背負ってしまっては、そのプレッシャーだけで精神的につぶれてしまうかもしれない。
「会社を継いでくれ」とM社長に言われたとき、そんな苦労が脳裏に浮かび、彼が拒絶したのは、当然のことかもしれなかった。

「それでも彼に継いで欲しいんです。自分が社長を務めているうちにどのような準備をすればいいのか、そこを相談に乗っていただきたい」
知人から勧められた税理士の芦辺(以下、芦辺)のもとを訪ねたM社長。自分が後継者として選んだ人物がどれほど優秀かを説明した。
「老舗の家具メーカーに革新を与えるのは彼のような人物だと思う。だからこそ、負担なく継がせたい」
M社長の話を聞き終えて、芦辺が提案したのは、次のようなものだった。


経営権だけを社員に譲る

まず会社の上部組織としてホールディングスを立ち上げる。
M社長は、会社の株をもったまま、そのホールディングスの社長に就任する。

現会社の経営は、後継者に任せる。これならば後継者の社長が借金を背負うこともない。
M社長が当面、アドバイザーとなり、サポートをしたり、経営ノウハウを教えたりしていけばいい。
やがて後継者が社長としての自覚と自信がついていくだろう。
これで後継者に金銭的に大きな負担を背負わせることもなく事業を継いでもらうことができる。

一方、新設されるホールディングスは、会社の株を保有するだけではなく、会社の不動産ももつことにした。
そうすることで、3年後にはホールディングスの株の価額が下がる予定だ。
その時点で家族に株を移し、資本と経営をわけて残すことにしたのだ。

会社に戻ったM社長は、芦辺の提案を、後継者候補の彼に話してみた。
数年前のように悲鳴を上げることもなく、M社長の言葉にじっと耳を傾けていた彼は、話を聞き終るとこう言った。

「社長がぼくのためにそこまで考えてくださっているのであれば、できるという確信はありませんが、精いっぱい、社長のあとをがんばってみます」

こいつ、また成長したな。自分が開発した家具の評判がいいことが自信につながっているのだろう。
この会社にも、いい風が吹いてきたのかもしれない。
M社長は今、ホールディングス立ち上げに向けて段取りを進めているところだ。

後継者に資金が無い


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